後遺障害の逸失利益と定期金賠償

令和2年7月9日に,最高裁判所にて,今後の交通事故の訴訟に大きく影響を与えるであろう注目すべき判決が示されました。

 

かなり専門的な話になるのですが,要約すると,後遺障害の逸失利益のような将来発生する損害について,一括払いではなく,将来にわたってその都度支払いを受けること(「定期金賠償」といいます。)を認めた判決になります。

 

最高裁の判決の全文は,以下のページで見ることができます。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89571

 

交通事故の裁判においては,後遺障害により働く能力が下がった結果将来見込まれる減収(逸失利益)について,従来ですと,裁判終了後に一括で支払うものとされてきました。

 

この場合,将来受け取るはずの収入を前倒しで受け取る形となるのですが,仮に,この前倒しで受け取った賠償金を運用して増やすことができれば,その運用益分だけ,逆に被害者が事故に遭わなかったときと比べて利得を得ることになります。

 

そのため,裁判所は,この見込まれる運用益を賠償金から控除して調整を図る(「中間利息控除」といいます。)という取り扱いが確立しています。

 

この点は,過去に私のブログでも取り上げていますのでご参照いただければと思います。

 

たとえば,月30万円,労働能力喪失率100%,20年間の逸失利益の賠償が必要な場合,これを一括支払いで受け取るときは,月30万円×12カ月×14.8775(20年に対応するライプニッツ係数)=5335万9000円を受け取る計算になります。

 

しかし,今回の最高裁判決のように,定期金賠償の方法によれば,運用益の控除を受けることなく,毎月30万円×12カ月×20年=合計7200万円の賠償を受けることができる計算となります。

 

実に1800万円以上の差がつくことになります。

 

そのため,今回の最高裁判決は,トータルでより多くの賠償金を得られる可能性がある点で,交通事故の被害者側に有利な判決であるといえます。

 

ただし,定期金賠償は,一度判決が出た後でも,その後の事情の変更に応じて,支払う金額の変更を求める訴えが可能とされています。

 

そのため,何年か経った後に,相手からその変更を求めて裁判を提起され,また争いごとに巻き込まれる可能性もあります。

 

加えて,仮に定期金を支払う加害者側(特に保険会社)が将来破産すれば,将来の賠償金は支払い不能になってしまうというリスクも考えられます。

 

また,判決文を読む限りでは,あらゆる交通事故において,逸失利益の請求をこの定期金賠償の方法が選択可能であると判断しているわけではなく,「(不法行為に基づく損害賠償制度の)目的及び理念に照らして相当と認められるとき」に,定期金による賠償の対象となり得ると判断していることに注意が必要です。

 

そのため,どのようなケースで定期金賠償による請求が可能なのかは,今後の裁判例の蓄積が待たれるところです。

 

交通事故を取り扱う弁護士にとっては,一層の調査検討が必要な判例であるといえます。