障害年金の遡及請求


障害年金は、原則として初診日から1年6か月後(「認定日」といいます。)に支給申請することができるようになります。



もっとも、障害年金の制度をそもそも知らなかったり、その当時は体調が悪くて身動きが取れないなど、障害認定日にすぐ申請できないことが少なくありません。



私が今まで対応してきた障害年金のご相談も、初診から1年6か月以上経ってから申請したいというケースが半分以上という印象です。



このようなケースでも、遡及請求という方法を使えば、過去にさかのぼって年金を請求するよう請求することができます。



遡及請求が認められれば、最大で過去5年間の障害年金をまとめて支給することができます。



一度に300万円以上支給されることも多くあります。



ただし、遡及請求を行う上でハードルになるのが、初診から1年6か月後時点の診断書を入手することです。



当時通院した病院にカルテ等の記録が残っていれば、その記録に基づいて書いてもらえる可能性があります。



しかし、カルテの保管期間は法律で5年間とされており、時間が経ちすぎているとカルテが破棄されてしまっているおそれがあります。



また、カルテが残っていても、その記載が必ずしも完璧とは限りません。



障害年金は専用の診断書を書いてもらう必要があり、記載事項は多岐にわたります。



医師としては、治療に必要な範囲でカルテを残すのであって、障害年金の診断書を書くために記録を残すのではありません。



そのため、診断書に必要な記載が漏れており、このような場合には医師としては「記録にない事項は書けない」と断れてしまうおそれがあります。



また、遡及請求の制度上の問題点として、あくまで認定日時点の症状で判断するので、認定日時点だとまだ症状は軽かったが、その後に悪化したようなケースでは、遡及請求は認められません。



遡及請求は過去の資料が必須であり、手続き自体も難しいため、弁護士等の専門家のサポートがないとなかなかうまく進められないケースが少なくありません。



長い間障害に苦しんでいるという方は、悩まず早めに弁護士に相談することをおすすめします。


家族が自殺してしまった場合に生命保険は受け取れるのか


最近、芸能人の自殺のニュースに触れる機会がありました。


警視庁発表の統計では、令和3年度の自殺者数は2万1007人とされ、減少傾向にはありますが、多くの人が自ら命を絶っています。


相続の場面では、故人が自殺したため、生命保険金を受け取れるのかどうかが問題になる場合があります。


また、弁護士として借金のご相談を受けるときに、「家族にこれ以上迷惑をかけられないから、いっそ死んで生命保険金で借金を返してもらおうと思うことがある」と打ち明けられることも何度かありました。


保険法51条1項は被保険者が自殺をしたときは、保険金を支払う責任を負わないとされています。


ただし、実際には、生命保険会社は上記法律の定めとは異なる独自の支払基準を設けていることがほとんどです。


保険会社は、以下のような場合には、生命保険金を支払わないと定めていることが多いようです。


① 自殺が保険金を受け取ることを主目的としている場合


たとえば、借金の返済するために自殺をして保険金を得ようと考えている場合です。


生命保険は、偶発的な事故や病気での死亡に備えることを目的としており、保険金を受け取るための意図的な自殺はその趣旨に反するからです。


② 免責期間が満了していない場合


一般的には生命保険を契約してから1年~3年程度の免責期間が設定されており、この期間中に自殺してしまった場合は、保険金を受け取ることができません。


生命保険を契約してから間もなくの自殺は、保険金目的であることが疑われるためとされています。


ただし、上記①②に該当する場合でも、うつ病などの精神障害を患っていて、正常の判断ができない状態で自殺してしまった場合には、例外的に保険金が支払われる場合があります。


その場合には、精神科や心療内科の通院記録などの証拠が求められることがあります。


もっとも、仮に生命保険が下りるとしても、残された遺族の方の悲しみは、保険から受け取れるお金では計り知れないものと思います。

思い悩んでしまったら、その悩みは自殺以外の方法で解決できないのか、まずは国や自治体でも、弁護士や医者でもいいので相談してほしいです。

働いていたら障害年金は受給できない?

障害年金のご質問・ご相談で多いものとして、「自分は働いているけど、障害年金を受給することはできるのか?」というものがあります。

日本年金機構のホームページを見ると、障害年金の認定基準について以下のような記載があります。

障害の程度1級
他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。身のまわりのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような方が、1級に相当します。

障害の程度2級
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当します。

障害の程度3級
労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方が3級に相当します。

(以上、日本年金機構のホームページより)

これだけ見ると、一番症状が軽いとされる3級でも、「労働が著しい制限を受ける」状態でないといけないように読めます。

そのため、「働いていると障害年金は受給できない」と思ってあきらめてしまう方が少なくないようです。

もっとも、実際は、障害年金は働いているからと言って必ずしも受給できなくなるとは限りません。

たとえば、うつ病や双極性障害といった精神の障害では、「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活を判断する」ものとされています。

ただし、障害年金は書面審査が原則であるため、診断書や病歴・就労状況等申立書に上記の就労状況がきちんと言及されていないと、症状が過小評価されてしまうおそれがあります。

こういったケースでは、障害年金申請の前に、診断書や病歴・就労状況等申立書等に不備がないか、障害年金に精通する弁護士に相談することをおすすめします。

障害年金の請求は1年6か月待たないといけないのか


障害年金の請求をするためには、原則として初診の日から1年6か月の経過を待つ必要があります。



ただし、症状や治療の内容によっては、1年6か月を待たずに請求することが可能な場合があります。



たとえば、事故で手足を切断することになってしまった場合などは、手術を行った時点で、もうそこから1年6か月経とうが手足が生えてくるということはあり得ないため、その時点から障害年金を請求することができます。



同様に、人口関節や心臓にペースメーカーを入れた場合なども、手術を行った時点から請求することが可能です。



また、脳梗塞・脳出血によって身体マヒが残るなど身体の機能障害が残ってしまった場合は、初診から6か月経過し、かつ主治医がこれ以上改善の見込みが乏しい(症状固定)と判断した場合は、その時点から請求することができます。



この他にもいくつかの例外があります。



このような認定日の例外は、遡及請求(障害年金を過去にさかのぼって請求すること)を行う際にも重要になってくることがあります。



遡及請求の場合には認定日の診断書を過去の記録に基づいて書いてもらう必要にありますが、たとえば、初診から1年6か月が経つ前に人工関節の手術をして、医師から「もうこれ以上はリハビリをしても良くならないから」といわれて通院をやめてしまった場合に、「1年6か月の時点では通院していないから当時の診断書を書いてもらうことはできない」と判断して遡及請求を諦めてしまう方がいらっしゃいました。



この場合は、人工関節の手術をした日の病状を診断書に書いてもらえれば、問題なく遡及請求をすることができます。



実は、診断書を作成する医師も、このような例外があることをよく理解していないことが少なくありません。



そのため、患者に間違った案内をして請求の機会を逃してしまったり、診断書が書ける時期ではないと誤解しているため、患者からの作成依頼を拒否されてしまうことがあったりします(医師も悪気があってやっているわけではなく、本当に知らなくて間違った対応をしていることがほとんどです)。



そのようなケースでは、弁護士が病院との間に入り、制度の内容を説明することで診断書を作成してもらえることも少なくありません(複雑な制度の話なので、患者が問診のときに説明してもうまく伝わらなかったり、医師が聞く耳を持ってくれないということが結構あります。。。)。



障害年金の請求は専門的な内容が多いので、手続を進める際は、弁護士にご依頼いただくことが確実かつスムーズです。


国際相続の準拠法と裁判管轄

国際化が進んだ近年では、亡くなった方が外国籍のケースや、亡くなった方は日本人だが相続人が外国籍というケースの相続の相談を受けることがあります。



この場合、どの国の法律に従って相続が行われるのでしょうか。



また、手続の際に裁判所を利用しないといけない場合、日本の裁判所を利用することができるのでしょうか。



こういった国際相続について、法の適用に関する通則法(通則法)第36条は、「相続は、被相続人の本国法による。」と規定しています。



つまり、亡くなった方が日本国籍なら日本の法律が、外国籍ならその外国の法律が適用されることとなります。



一方、相続に関する手続のうち、たとえば遺産分割調停や相続放棄の申立てなどは裁判所を通じて行うこととなりますが、日本の裁判所を利用できるかどうか(管轄)は、家事事件手続法に規定があります。



同法3条の11第1項は、「裁判所は、相続に関する審判事件について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。」としています。



亡くなった方が死亡当時日本に住んでいれば、国籍にかかわらず日本の裁判所で手続を進めることが可能ということになります。



そうすると、外国籍の方が日本国内で亡くなった場合、日本の裁判所が海外の法律に従って判断を下すということになります。



韓国籍や中国籍などの相続について裁判所もある程度手馴れているようですが、国によっては裁判官もその国の法律を知らないということが当然あるようです。



そういったケースでは、裁判所への申立ての際に、代理人弁護士にてあらかじめ法令調査を行ったうえで申し立てをするよう命じられることがあります。



申立てさえしてしまえば裁判所が勝手に判断してくれるというわけにはいかないのです。



最近私が扱った案件では、被相続人がラオス国籍の方で、ラオスの法律で相続放棄はどのような要件で可能なのか確認したうえで裁判所に申立てするよう命じられたことがありました。



幸い、ラオスの民法典は日本の法整備支援を得てつくられたもので、奇跡的に日本語訳があったのでなんとか調査することができました。



もし日本語訳がなかったら、ラオス語で書かれた条文を翻訳するところから始めないといけませんでした。 参考までにラオス語で書かれたラオスの民法典を載せておきます。みなさんは読めるでしょうか。

障害年金等級の併合認定

弁護士の伊藤です。


今回は障害年金の併合認定について,少しお話したいと思います。


すでに障害を抱えている場合に,別の障害も発症してしまうというケースがあります。


たとえば,うつ病が発症している状態で事故に遭い,片腕が動かせなくなってしまった場合(一上肢の用を全廃したもの)などです。


この場合,2つの障害がそれぞれ2級相当であったとしても,2級の障害年金が2つ支給されるわけではありません(支給金額が2倍になるわけではありません)。


もっとも,複数の障害をかかえている場合,日常生活や仕事への影響は,障害が一つだけの場合と比べて大きいことが通常です。


そこで,複数の障害が認められる場合は,障害の内容にもよりますが併合認定を行うことで,より上位の等級が認められることがあります。


上述のケースだと,うつ病の2級と,一上肢の用を全廃したものの2級とが併合認定され,1級の等級が認められます。


この場合,2級の認定と比べて,障害年金の支給額も増えることとなります。


併合認定は,


・複数の障害について,まとめて障害年金の初回申請するケース,


・すでに障害年金を支給中に,後発の障害についても追加で申請して上位の等級を目指すケース,


・前発の障害で一度障害基礎年金を申請していたが支給に至らなかったケースで,後発の障害が加わることで初めて支給の対象となる可能性があるケース


など,いくつかパターンが考えられます。


ケースによって,申請の方法や注意すべき点が変わってくることがあります。


また,複数の障害が認められれば,すべてのケースで自動的に上位の等級に繰り上がるわけではありません。


障害の内容や程度にもよってくるところなどで注意が必要です。


併合認定の基準は以下の厚生労働省のホームページにガイドラインが公開されています。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000054720_1_4_3.pdf


複数のケガや病気の症状で日常生活や仕事に支障がある方は,併合認定によりより高い等級の認定を受けられる可能性があります。


すでに一度障害年金の認定を受けており,等級が変わることはないと思って申請していない方や,過去に不支給決定がされて,障害年金の申請をあきらめてしまっている方も少なくないようです。


自分や家族が該当するかもしれないと思った方は,障害年金に精通する弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

時効の援用と信用情報

新規でローンを組もうと思ったり,クレジットカードを作ろうと思ったら審査が下りず,信用情報を調べたら,過去の借金の滞納の記録が残っていたという相談を受けることがあります。


さらに,滞納は5年以上前で,「5年で時効となり消えないのか」とか「信用情報の保有期間は5年と聞いたが,なぜまだ残っているのか」といった質問を受けることがあります。


そこで今回は時効の援用と信用情報についてお話ししたいと思います。


まず,時効の援用についてですが,借金は最終取引から5年を経過することで時効となります。


ただし,5年経過すれば自動的に消滅するのではなく,債務者から債権者に対して時効により消滅させるという主張を通知する必要があります。


一方,信用情報についてですが,信用情報機関によって保有期間は異なるものの,短いところだと1年程度,長いところだと5年程度記録を残すという運用となっています。


この保有期間については,借金が完済された場合や,消費者金融から債権回収業者に譲渡された場合の情報は,上記の保有期間で削除されることになります。


しかし,返済を継続している場合や,返済しないまま滞納になっている場合は,保有期間のカウントが開始することなく記録は残り続けることとなります。


つまり,借金の処理をしない限り,具体的には時効の援用をしない限りは,たとえ5年以上前の借金であっても,信用情報には残り続けることとなります。


時効の援用を行った場合,正確には信用情報から直ちに削除されるのではなく,信用情報の記載が「異動(滞納)」から「完了」に訂正・変更されます。


この時点で,滞納扱いから完済と変わらない状態に変更されることが一般的です。


その後,完了になってから保有期間が経過されれば,信用情報は完全に削除されることとなります。


過去の借金についての清算を考えている方は,弁護士に相談してみるとよいでしょう。

プロ野球のドラフト会議を見て思うこと

普段は法律ばかりで堅苦しいこのブログですが、たまには法律以外のことも話したいと思います。

10月11日、プロ野球のドラフト会議が行われました。

日本でプロ野球選手になるためには、このドラフト会議で球団に選ばれなければいけません。

私の母校の大学は結構な頻度でプロ野球選手を輩出するので、毎年気になって見てしまいます。

今回のドラフト会議、私が印象的だったのは、國學院大學の福永選手・川村選手、新潟医療福祉大学の桐敷選手・佐藤選手といった、同じ大学から同時に指名された選手たちです。

複数の候補選手がいる学校は、選手たちは同じ部屋に集まって指名を待っています。

指名の瞬間の動画をみていて気付いたのが、どの選手も自分自身が指名されたときは静かに喜びをかみしめる様子である一方、学友が指名された瞬間は、自分のこと以上に喜んでいるのが印象的でした。

自分よりも他人の幸せを喜ぶできることがなんて素敵なんだろうと、とても感動を覚えました。

さて、弁護士の場合だと、司法試験の合格発表がいわば「プロ」に進めるかどうかの運命の瞬間といえるかもしれません。

今年は9月7日に合格発表が行われ、1421人が合格しました。

プロ野球選手ほどではないでしょうが、私も、合格発表は、合格か不合格か、ドキドキしながら発表を学友とともに迎えました。

思い返してみれば、私も自分の番号があったときは、喜んではしゃいでというよりかは、ほっと安堵するような、受かってよかったという気持ちだったように思います。

一方で、学友も無事合格しているとわかったときは、自分以上にうれしく、肩を抱き合って祝福したことを覚えています。

目指すものは違えど、仲間と共に同じ目標を目指す人の気持ちというのは共通するところがあるのかもしれませんね。

障害年金の種類と金額

1 障害年金は大きく分けて2種類ある


 障害年金には、①障害基礎年金と、②障害厚生年金の2種類があります。


 どちらが支給対象になるかは、初診日に加入していた年金制度によって決まります。


2 障害基礎年金


 障害基礎年金は、初診日に国民年金に加入している方、たとえば、自営業者、学生、専業主婦などが対象となります。


 障害基礎年金は1級と2級の等級が設定されています。


 障害基礎年金の支給金額は定額です。加入年数にかかわらず、等級が同じであれば、だれもが同じ金額をもらえます。


 具体的には、1級の場合は年額97万7125円、2級の場合には年額78万170 0円となります。


 また、障害年金の受給者に生計を維持されている子供がいる場合には、子の加算も受けることができます。


 子の加算については、子ども2人までは1人につき22万4900円、子ども3人目からは1人につき7万5000円の加算となります。


3 障害厚生年金


 障害厚生年金は、初診日に厚生年金に加入している方、たとえば会社員や公務員などが対象となります。


 障害厚生年金は1級・2級・3級の等級が設定されています。


 障害厚生年金の支給金額は、平均報酬月額(それまでもらっていた報酬額)や加入月数によって計算されます。


 1級の場合は、2級・3級の場合の1.25倍の金額が支給されます。


 また、等級が2級以上でかつ配偶者がいる場合には、22万4900円の加給年金額が加算されます(65歳未満で年収が830万円未満の場合に限ります)。


4 障害年金は弁護士に相談を


 このように、障害年金はいくつかの種類と金額に分かれており、自分はどの対象となるか、支給金額はいくらになりそうなのか、そもそも支給の可能性があるのかどうかなどは、専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。

知的障害と障害年金


障害年金は、身体障害やうつ病などの精神障害などの他にも、先天的な知的障害も支給の対象になる場合があります。

本日は、知的障害で障害年金を申請するうえでのポイントをご説明いたします。

1 初診日

原則として、障害年金の申請には、初めて病院で診断を受けた日(初診日)がいつであるかが明らかでないといけません。

しかし、例外的な取り扱いとして、知的障害は先天的なものと考えられているので、初診日は原則として出生の日とされます。

そのため、初診日の証明は原則として不要となります。

2 障害認定日

知的障害の場合は、20歳の誕生日の前日が障害認定日となります。

3 納付要件

障害年金の支給を受けるためには、初診日までに一定の保険料を納めている必要がありますが、初診日が20歳より前の場合は、保険料の納付は不要となります。

知的障害の場合は、初診日は出生の日とされる関係で必然的に20歳前の初診日となりますから、納付要件も不要となります。

ただし、知的障害の場合は、20歳を過ぎて就職し厚生年金に加入していたとしていたとしても障害厚生年金の支給の対象にはならず、障害基礎年金のみが支給の対象となることに注意が必要です。

4 知的障害で障害年金が支給されるかの基準

障害基礎年金には等級が1級もしくは2級のみしかなく、障害厚生年金の場合には比較的軽度の場合に認められる3級が存在しないので、ある程度の日常生活や社会生活の支障が求められることになります。

1級ないし2級に該当するか、もしくは非該当になるかの判断は、一定の目安はありますが、様々な要素を考慮したうえで、障害認定審査委員が専門的な判断に基づき、総合的に判断するものとされています。

5 療育手帳との関係

知的障害を持っている場合、自治体から療育手帳の交付を受けている方も少なくありません。

療育手帳の制度は障害年金の制度と完全に別物となりますので、療育手帳の交付を受けている=障害年金が支給されるというわけではありません。

もっとも、「精神障害に係る等級判定ガイドライン」によれば、療育手帳の有無や区分を考慮するものとされており、療育手帳の判定区分が中度以上(知能指数がおおむね50以下)の場合は、1級また2級の可能性を検討し、それより軽度の区分である場合は、不適応行動等により日常生活に著しい制限が認められる場合は、2級の可能性を検討するものとされています。

知的障害の場合は、四肢の欠損などの身体障害と比べると明確な基準がない分、申請の際には様々な資料を他覚的に検討する必要があります。

ご自身やご家族が知的障害を抱えており、障害年金の申請を考えている方は、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士による障害年金申請のサポート


障害年金は公的年金のひとつで、病気やケガのために就労や日常生活に支障があるときに支給を受けることができます。

障害年金の特徴として、その病気やケガになった原因は問われません。

たとえば、労災保険は仕事中や通勤中の事故、自賠責保険は交通事故でないと受給することができませんが、障害年金にはそのような制限がありません。

令和2年度の統計によると、日本全国の障害のある人は964万7000人に上り、年々増加傾向にあります。(令和2年度障害者白書より)。
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r02hakusho/zenbun/siryo_02.html

このような障害を抱える人の生活の保障は、大きな社会的な課題のひとつになっているといえます。

一方で、その生活保障の中核となる障害年金の受給者数は、令和元年度時点で221万1000人にとどまっています(令和元年度厚生年金保険・国民年報事業年報より)。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_r01.pdf

つまり、障害者の700万人以上が、障害年金を受給できていないままということになります。

その原因としては、障害年金の申請手続の煩雑さがあると思われます。

障害年金の申請には、医師に診断書の作成を依頼するほか、病歴や就労状況の報告書、加入している年金の種類によって異なる申請書などを作成して提出する必要があります。

病気やケガで疲弊している方には、少なからぬ負担であると思われます。

また、障害年金を受給するためには一定の要件があり、診断書の記載内容が不十分・不適切であったため、本来受給の要件を満たすべき障害が認定されなかったというケースも多くあると推測されます。

適切な認定を受けるためには、診断書の作成から申請の手続きまで、専門家のサポートがとても重要であるといえます。

そこで、弁護士法人心は、この障害年金の問題を集中的に取り扱う「障害年金チーム」を結成し、障害年金に関するご相談や申請代行などのサポートをさせていただいております。

障害年金は過去に受給できたはずの金額を遡って請求できる可能性もあり、その場合は時効で権利が消滅することのないよう、できるだけ早めに申請を行う必要があります。

障害年金の申請を考えている方は、お気軽にご相談いただければと思います。

財産開示手続の強化

民事執行法には、財産開示手続という財産調査の手続が定められています。


財産開示手続とは、債権者の申立てにより、裁判所が債務者を裁判所に呼び出し、債務者に自己の財産について陳述させる手続です。

お金を払わない相手から強制執行するためには、どこに財産があるかを調べる必要があり、その財産の在り処を申告させる制度ということです。


しかし、今までは使い勝手が悪く実効性に乏しかったため、有効利用されていない手続でした。


この、財産開示手続の実効性を強化すべく、2020年4月に民事執行法の改正が行われました。


1 不出頭等への制裁の強化


財産開示手続に出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合の罰則は、従前は30万円以下の過料でした。


しかし、強制執行しないといけない債務者=元々任意でお金を支払う気のない人たちであることが多く、過料30万円ではほとんどプレッシャーにならないという指摘がありました。


この罰則が、改正により6月以下の懲役または50万円以下の罰金に強化されました。


罰金の金額はともかく、懲役の可能性があることは、心理的に大きなプレッシャーになることが期待されます。


2 第三者からの情報取得手続


元々、債務者が自らの資産を自己申告するという財産開示手続のシステム自体が、実効性に欠け使いにくいという意見が強くありました。


そこで、改正法では銀行や登記所といった第三者からの財産に関する情報の取得手続が実現するに至りました。


情報提供を求めることのできるものとしては、以下のとおりです。


①不動産情報

債務者名義の不動産(土地・建物)の所在地や家屋番号。

東京法務局に対して行うことができます。


②勤務先情報

債務者に対する給与の支給者が誰であるか(債務者の勤務先)。

市区町村や、日本年金機構など厚生年金を扱う団体に対して行うことができます。


③預貯金情報

債務者が銀行等に開設している預貯金口座の情報(支店名、口座番号、額)。

銀行や信用金庫などの金融機関に対して行うことができます。


④株式情報

債務者名義の上場株式・国債等の銘柄や数等。

証券会社等の金融商品取引業者や銀行に対して行うことができます。


裁判に勝っても、それでも相手が支払いに応じず賠償金や慰謝料を回収できないというケースは残念ながら起こり得ることで、弁護士としても歯がゆい思いをすることがあります。


そのようなケースが1件でも減るよう、強制執行のための手段が充実することは良いことだと考えます。

【赤青緑黄】交通事故の慰謝料の基準にもいろいろある

 

交通事故の慰謝料の計算基準には、大きく分けて①自賠責基準・②任意保険会社基準・③弁護士基準(裁判所基準)の3つの基準があります。

 

そして、ケースにもよりますが、③弁護士基準(裁判所基準)で計算した方が有利になることが少なくありません。

 

実は、この弁護士基準(裁判所基準)も統一的な基準があるわけではなく、目安となるべき基準がいくつか存在します。

 

弁護士は、ケースに応じてこのいくつかある基準を使い分けて交渉することがあります。

 

1 赤本基準

 

「財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部」が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」が提案する基準です。この本の表紙が赤なので「赤本」と呼ばれます。

 

基準が比較的明確で、東京支部が発行していますが、全国どこでもこの赤本基準を参照することが多いです。

 

2 青本基準

 

「財団法人日弁連交通事故相談センター」が発行する「損害賠償額算定基準」が提案する基準です。表紙が青なので「青本」と呼ばれます。

 

青本基準の特徴は、慰謝料の金額に幅を持たせて設定されていることです。

 

柔軟な解決に資するとも言えますが、基準としての明確性には欠くため、幅のある金額の中で高い方を取るか安い方を取るかでもめることも多いです。

 

そのため、赤本基準と比べると使われないですが、明らかに大きな事故で多大な精神的苦痛を被ったというべき案件では、この基準の上限いっぱいで請求することもあります。

 

3 緑本基準

 

大阪地裁において民事交通事故訴訟を担当している裁判官により組織された「大阪地裁民事交通訴訟研究会」が発行する「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」が提案する基準です。表紙が緑なので「緑本」と呼ばれます。

 

通院に対する慰謝料が赤本基準と比べると少し有利に計算されることが多いです。その代わり、入院に対する慰謝料の評価が少し控えめです。

 

大阪地裁における基準なので大阪以外の地域では基本的に通用しないです。

 

4 黄色本基準

 

「公益財団法人日弁連交通事故相談センター愛知県支部」が発行する「交通事故損害賠償額算定基準」が提案する基準です。表紙が黄色なので「黄色本」と呼ばれます。とてもマイナーです。

 

弁護士法人心は名古屋に本部がありますが、実は私はこの基準を使って交渉したことはありません。なぜなら慰謝料の計算基準が赤本基準よりも低いので・・・

 

 

ところで、弁護士法人心は、2021年5月7日付で弁護士法人心大阪法律事務所(関西本部)を新しくオープンしました。

大阪駅から徒歩5分・北新地駅から徒歩1分・東梅田駅から徒歩2分と、アクセスしやすい立地となっております。

 

弁護士法人心大阪法律事務所(関西本部)のアクセス等はこちらをご覧ください。

 

大阪の事務所がオープンしたことで、緑本基準を使う場面が増えるかもしれません。

 

少しでも交通事故の被害者の方に多くの慰謝料を受け取ってもらうよう、交渉技術を磨いていきたいと思います。

確定申告を過少申告している場合の休業損害・逸失利益

今年の確定申告は4月15日まで延長されていますが、みなさんは確定申告はもう済んでいるでしょうか。

 

確定申告の内容は、交通事故の損害賠償請求においても関係してくることがあります。

 

自営業者の場合、交通事故により被った休業損害や後遺障害による逸失利益を計算するにあたっては、確定申告の所得金額をベースに日額や年額を計算することが一般的な実務の取り扱いとなっています。

 

当然ながら、所得が大きいほど賠償されるべき損害額も大きくなるのが通常です。

 

しかし、中には、節税(脱税?)を行った結果、確定申告の所得を低く抑えているケースがあります。

 

その場合、確定申告上の所得で計算すると、現実に被った損害と比べて低い金額でしか計算されないことになります。

 

このような場合に、「本当はもっと所得があったんだ!(=だから休業による損害はもっと大きいんだ!)」と主張することは、主張自体が許されないとまではいわれませんが、その認定に当たっては非常に厳しくジャッジされることになります。

 

交通事故を専門的・集中的に扱う東京地方裁判所民事第27部の裁判官は、確定申告外の所得があるという被害者の主張について、以下のように指摘しています。

 

まず、確定申告書に一定額の所得を記載したということは、自らの所得が申告所得額に限られるということをほかならぬ被害者自身が表明していたことになります。

 

これを損害賠償請求の場面になったら自ら有利になるように主張を都合よく変えるということは、自己矛盾の主張であるとして、被害者の主張全体が疑わしいという評価を受けることになります。

 

そのため、売上及び経費の全体を客観的な裏付けのある証拠で立証したうえ、ここから確定申告書に記載した売上及び経費を控除して計算した結果、申告外所得が残ることまでを裏付けをもって立証する必要があるとされています。

 

具体的には、会計帳簿や伝票類、日記帳、レジの控え、契約書、納品書、請求書、領収書、預金通帳等を網羅的に用いて、現実の売上と経費を裏付けしていく必要があります。

 

なお、確定申告額が過小である場合には修正申告をすることができます。

 

修正申告を行うことは、修正申告で申告した所得があることを基礎づける事情の一つとは考えられていますが、これだけで修正申告での所得額が認定されるわけではなく、上述した会計帳簿等の証拠によって当該修正申告の内容が裏付けられなければなりません。

 

 

・・・節税対策もいいことばかりではないということですかね。

 

ちなみに、当事務所では弁護士法人のほか、連携する税理士法人もございますので、税金についてのご相談もお気軽にお問合せいただければと思います。

交通事故で保険料が上がっても自分の保険を使った方がいいケース

交通事故で自分の保険を使う場合、等級が下がり、保険料が上がってしまうことになります。  

そのため、相手が保険に入っている場合はできるだけ相手の保険で対応してもらうことが好ましいです

もっとも,ケースによっては、自分の保険を利用した方がいい場合もあります。

 

1 自分の過失が大きい場合

 

自分にも過失がある場合、相手の損害を過失分に応じて支払う必要があります。

また、相手が支払ってくれる賠償金も過失割合に応じて減額されることになります。   

この場合、保険料が上がっても自分の保険を利用した方がいいことが少なくありません。

 

たとえば、双方の過失が50:50で、双方の車両の修理代がともに50万円の場合、自分の保険を使わない場合だと

①修理代でマイナス50万円

②そのうち、50%の25万円は払ってもらえる(プラス25万円)

③しかし、相手の修理代の50%25万円を払わないといけない(マイナス25万円)

→結果、マイナス50万円の出費となります。

 

一方、自分の車両保険と対物保険を使った場合は、

①修理代のマイナス50万円は自分の車両保険から全額補填してもらえる(プラスマイナス0)。

②相手への支払いも対物保険から全額支払ってもらえる

→マイナスは保険料の増額分のみとなります。

 

このように、相手の保険を使わない方が得するケースもあるので、自身の保険会社担当者に使った場合のシミュレーションをお願いしておくといいでしょう。

 

3 相手に請求できないようなものも補償してくれる場合

 

たとえば、事故車両が全損になってしまったが、新車特約に加入している場合などです。

事故車両が全損になってしまった場合は、新車の購入価格ではなく、事故当時の時価額の限度でしか相手には請求することができません。

しかし、新車特約に入っている場合、契約時の設定価格までは自分の保険から賠償してもらうことができ、相手に請求するよりも自分の保険を使った方が得になるケースが少なくありません。

 

4 使っても保険料が上がらない特約を利用している場合

 

保険の内容によっては、保険を利用しても保険料が上がらないものもあるので、そういったサービスは利用しない手はありません(むしろ、特約に加入するために保険料を追加されているはずなので、使えるのに使わないのは逆に損しているとも言えます)。

 

たとえば、人身傷害保険特約やレンタカー特約などは、使っても保険料が上がらない契約になっていることが多いようです。

また、弁護士費用特約も、保険料が上がらない契約になっているのがほとんどです。

特約に加入しているなら相談だけでも利用すると良いでしょう。

司法試験の合格発表

今年の1月20日に令和2年度の司法試験の合格発表が行われました。

 

例年ですと、5月に試験が行われ、9月に最終合格発表があるのですが、今年は新型コロナウイルスの影響で試験の実施が8月にずれ込み、最終合格発表も1月までずれ込むこととなりました。

 

令和2年度の合格者数は1450人で、合格者数を1500人前後を目安とする、近年の国の方針におおむね沿う結果となりました。

 

一方、受験者数は減少し、令和2年度は3703人にとどまったため、合格率は39.16%と、受験者の3人に1人以上が合格するまでとなっています。

 

現行の試験方式に統一されて以降、受験者数のピークは平成23年の8765人でした。それと比べると半減以上ということになります。

 

このような数字を見ると、職業としての弁護士人気にも翳りが見えているのは否めないかもしれません。

 

合格率が一桁だった時代と比べると、最近の合格率だけ見れば難関試験合格というステータスが昔ほど感じられないという声があるようです。

 

また、弁護士の人数が増えた結果、過当競争になり平均所得が減少しているのは確かです。

 

そのわりに、試験で求められる知識レベル(難易度)は相応に高いので、合格まで数年かかる(もしくは数年かけても受からないこともある)弁護士という職業は、就職先としてはコストパフォーマンスの悪い職業だというシビアな意見もあるようです。

 

もっとも、今般司法試験にチャレンジされる方々は、そういった外聞も承知で弁護士を目指しているのでありましょうから、むしろ高い志を持った方々であろうと思います。

 

思い返せば、私が司法試験に合格した時期もすでに過渡期に差し掛かっており、「弁護士になって大金稼いで肩で風を切って歩きたい」という理由で弁護士になった人は、私含めて同期にはいなかったなあという記憶があります。

 

毎年合格発表の時期になると、自分が合格した時をはからずも思い返してしまいます。

 

弁護士になったばかりの初心を忘れずに、今後も誠実に弁護士業に取り組んでいきたいですね。

少し特殊な後遺障害の異議申し立て②

前回のブログの続きとなります。

 

最終的な等級が変わらないのに、なぜ異議の申し立てをする必要があったのでしょうか。

 

これには、被害者の逸失利益を計算する際に用いる「労働能力喪失率」が大きく関わってきます。

 

労働能力喪失率は、等級に応じてある程度の目安が決まっており、等級が高いほど重篤な症状であるとして、労働能力喪失率の目安も高くなります。

 

たとえば、8級相当だと45%、9級だと35%、一番低い14級だと5%・・・という具合です。

 

ただ、あくまでこれは目安なので、残存した後遺障害の内容や特性に応じて、具体的に判断しないといけません。

 

今回労働能力喪失率の関係で注目しないといけないのは、顔面の醜状障害です。

 

醜状障害は、傷こそ残るものの、何か身体が動かせなくなるわけではないので、容貌が重視されるような職業(たとえばモデルや俳優など)でない場合には、労働能力には影響がないと判断されてしまう可能性があります。

 

そのため、異議前のままだと、認定された等級は8級相当でも、労働能力に影響があるのは実質的には左手関節の可動域制限(12級相当)だけで、喪失率は14%程度だろうという反論を相手に許すことになります。

 

一方、異議申し立て後は、外貌醜状を抜きにしても左親指と左手関節の可動域制限で9級相当の後遺障害が残っていると評価することができます。

 

そのため、仮に外貌醜状を加えた8級相当の労働能力喪失率が認められないとしても、少なくとも9級相当(35%)の労働能力喪失率が認められるべきとの再反論が可能となります。

 

12級(14%)と9級(35%)では労働能力喪失率に2倍以上の差が生じることになり、得られる賠償金額も大きく変わっていくことになります。

 

今回は、異議申し立てにより追加で左親指の後遺障害が認められ、外貌醜状を抜きにしても9級相当という狙い通りの結果を得ることができました。

 

交通事故に精通していない弁護士だと、このような労働能力喪失率の違いを見落とし、同じ8級だからと異議の申し立てを怠った結果、少ない賠償金しか獲得できないという事態も起こり得ます。

 

交通事故に被害に遭われ、すでに後遺障害の認定も終わっているという方も、交通事故に精通する弁護士に相談することをおすすめします。

少し特殊な後遺障害の異議申し立て

弁護士法人心では、交通事故の後遺障害の等級獲得に特に力を入れております。

 

治療段階から申請まで1からサポートさせていただく場合や、すでに結果が出てしまっている後遺障害の認定が妥当でない場合の異議申し立てなど、適切な後遺障害等級が認定されるよう、弁護士・スタッフが総力を挙げて取り組ませていただいております。

 

さて、今回は、私が数多く取り扱っている後遺障害の異議申し立ての中でも、少し珍しい申立てのケースをご紹介したいと思います。

 

多くの場合、後遺障害の異議申し立ては、非該当だった場合に等級獲得を目指すケースや、低い等級を上位の等級に引き上げる目的で行います。

 

しかし、今回私が取り扱ったケースは、異議申し立てを行っても、認定内容(認定の理由)は変わる可能性があるが、最終的な後遺障害等級自体は変わらないことが予想されるケースでした。

 

最終的な等級が変わらないと、自賠責保険からもらえる保険金の金額も変わりません。

 

しかし、今回のケースでは、最終的な等級は変わらなくても、異議申し立てをすることの意味があるケースだったので、チャンレンジすることにしました。

 

問題のケースでは、バイクで運転中事故に遭い、複数箇所の骨折など全身にけがを負ったものとなります。

 

主な残存症状は、①顔面の醜状損害、②その他各所の手術痕・傷痕、③左橈骨遠位端骨折に伴う左手関節の可動域制限、④鎖骨骨折に伴う鎖骨付近の可動時の違和感、異音、⑤鎖骨骨折後の拘縮に伴う左肩可動域制限、⑥右橈骨遠位端骨折に伴う左手関節の可動域制限、⑦左手親指の脱臼後の可動域制限の7つでした。

 

これらの症状に対して、最初の申請結果は、

① 顔面の醜状損害

→★9級16号

② その他各所の手術痕・傷痕

→基準値に至らず非該当

③ 左橈骨遠位端骨折に伴う左手関節の可動域制限

→★12級16号

④ 鎖骨骨折に伴う鎖骨付近の可動時の違和感、異音

→基準値に至らず非該当

⑤ 鎖骨骨折後の拘縮に伴う左肩可動域制限

→基準値に至らず非該当

⑥ 右橈骨遠位端骨折に伴う左手関節の可動域制限

→基準値に至らず非該当

⑦ 左手親指の脱臼後の可動域制限

  →事故時の受傷か断定できないため、因果関係不明のため非該当

と認定されました。

 

複数の後遺障害等級が認められると「併合」という等級調整の処理が行われます。

このケースだと、①と②が併合処理され、高い方の等級である9級が1つ繰り上がり、最終的な等級は8級であるとの判断がされました。

 

この認定に対して、私が異議申し立てのターゲットに絞ったのが、⑦の左手親指の脱臼後の可動域制限です。

 

もし事故との因果関係が認められれば、単独では10級7号が認められる可能性がありました。

 

しかし、この場合、仮に異議が成功しても、最終的な後遺障害等級は変わりません。

 

まず、②の12級と⑦の10級は同一の系列の障害として取り扱われ、併合の方法に準じて高い方の等級である10級が1つ繰り上がり9級相当と認定されます。

 

その後、さらにそれが①の9級16号と併合処理され、9級がまた1つ繰り上がり8級と認定されるのですが、これでは最終的な後遺障害等級は、異議前と変わりません。

 

しかし、同じ8級でも、異議前と異議後では、大きな違いがあります。

 

・・・長くなったので、次回にその理由をご説明させていただきたいと思います。

ひき逃げとその責任

先日,若手俳優が自動車を運転中にひき逃げをして逮捕された事件が話題になりました。

 

この「ひき逃げ」という言葉はよくニュースで耳にしますが,法律上は,道路交通法72条が定める救護義務・報告義務を果たさないことを言います。

 

道路交通法72条は,

 

「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」

 

と定めています。

 

これに違反した場合,救護義務違反については5年以下の懲役又は50万円以下の罰金、報告義務違反については3月以下の懲役又は5万以下の罰金が科せられる可能性があります。

 

これに加えて,被害者がケガをしている場合は,自動車運転過失致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の5条)が成立し,7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金を科せられる可能性があります。

 

私は弁護士になる前の修習期間中,検察庁交通部という,検察官が交通事故を集中して扱う部署にて修習したことがあります。

 

そのときに検察官から聞いたのですが,交通事故を起こしてしまっても,被害者のケガが軽い場合は不起訴になることも少なくないのですが,ひき逃げの場合は別で,原則としてケガが軽くても起訴する運用にしているとのことでした。

それだけひき逃げの罪を重く見ているということです。

 

ひき逃げをしてしまうと非常に重い処分が予想されます。

万が一事故を起こしてしまった場合は,間違っても逃げるようなことはせず,誠実に対応することが求められます。

ドライブレコーダー

みなさんの車には,ドライブレコーダーは搭載されているでしょうか?

 

ドライブレコーダーの記録映像は,交通事故に遭い過失割合が問題になったときに,大きな証拠になる場合があります。

 

よくあるケースでは,進路変更車が前に割り込んできて衝突してしまった場合に,進路変更車両のウインカーの有無が問題になるようなケースが典型的なものといえます。

 

通常,このようなケースでは,進路変更車両70:後続直進車両30の過失割合が基本となります。

 

しかし,進路変更車両がウインカーを出していない場合は20%程度の修正が入り,90:10になることが多いです。

 

ですが,往々にして,進路変更車両は「自分は適法にウインカーを出してから進路変更した」と主張してくることが少なくありません。

 

相手が非を認めない場合,こちらが客観的な証拠を提出してウインカー点灯の有無を証明しないといけません。

 

このようなケースで,ドライブレコーダーの映像が残っていれば,動かぬ証拠となります。

 

逆にドライブレコーダーがないと,多くのケースで双方の主張は水掛け論になってしまい,被害者が泣き寝入りしないといけなくなることも少なくありません。私自身,交通事故を扱う弁護士として歯がゆい思いをすることが多々ありました。

 

交通事故に備えるため,また,近年多くみられる煽り運転の対策のため,ドライブレコーダーを搭載する車両は増えています。

 

国土交通省が2019年11月に行ったアンケート調査(https://www.mlit.go.jp/monitor/R1-kadai01/24.pdf)によると,自家用車を保有している45.9%の人が,ドライブレコーダーを搭載していると答えています。

 

そして,67.3%の人が,ドライブレコーダーの効果について,「おおむね期待通り」もしくは「期待以上」の効果があったと答えています(残りのうち,28.3%は事故等に遭遇していないので「わからない」と回答しており,期待外れだと答えたのは全体の1.9%にとどまります)。

 

最近では,ドライブレコーダーも安価にありつつあり,また,ドライブレコーダー特約付きの保険も登場しています。

 

まだドライブレコーダーを搭載していないという方は,万が一に備えて,導入を検討されてはいかがでしょうか。