障害年金の審査では、必ず「認定医」と呼ばれる医師が関与することになります。
その認定医が審査の中で作成するのが「認定調書」と呼ばれるもので、等級の判断やその理由、根拠などが示されている重要な書類となります。
この認定調書に関して、一度作成された認定調書が破棄され、別の認定医にあらたに認定調書を作成させて審査を進めていたケースがあったというニュースが昨年末から今年にかけて報道されました。
元々障害年金の審査には不透明な部分があり、「障害年金が不支給になるように、都合の悪い認定調書を破棄して審査をやり直していたのではないか?」という疑惑の目も向けられています。
これらの報道を受けて、令和8年1月16日には厚生労働省から「障害年金における認定調書の取扱いについて」という調査報告が公表されました。
https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/tenken.files/ninnteityousyo.pdf
この報告によると、まず、
① 令和6年5月以降、認定医の審査のやり直しをしていたのが約7500件あった。
② 認定調書に誤りや疑義が生じた場合に審査のやり直しを行うが、その際、スケジュールの都合などで当初の認定医とは別の認定医に依頼することがある。
③ 再審査を行い、不要になった認定調書は、3か月保管の上、廃棄する取扱いとしていた。
とのことです。
そのうえで、
④ やり直し前の認定調書が破棄されず残っていた令和7年10月以降の案件811件を調査した。
⑤ 調査の結果、別の認定医が再審査したことにより支給から不支給に判断が変わったケースは11件、下位等級に変更されたケースは6件だった。
⑥ 逆に、別の認定医が再審査したことにより不支給から支給に変わったケースは94件、支給から上位等級に変更されたケースは43件だった。
⑦ 支給から不支給になった案件について、医療専門役に最終的な判断結果の妥当性について確認したが、疑義はなかった。
と報告しています。
厚生労働省の意図としては、別の認定医が再審査したことにより支給から不支給に判断が変わったケースは811件のうちの11件だけであり(上記④⑤)、むしろやり直しにより不支給が支給になったケースの方が多い(同⑥)。認定調書の再作成には合理的な理由があり(同②)、専門家に確認してもらったが疑義はなかった(同⑦)のだから、世間で噂されているような恣意的に不支給を増やすような認定結果の操作はなかった、と結論付けたいのだと思われます。
しかし、この報告書には重大なミスリード(誤導)があると私は見ています。
私が注目したのは、今回の調査対象が令和7年10月以降の案件に限られていることです。
厚生労働省のロジックとしては、
・今回の調査は、審査のやり直しにより支給から不支給になった案件を調査するのが目的であり、やり直し前と後の両方の認定調書を比較検討する必要がある。
↓
・しかし、やり直し前の認定調書は不要になったら3カ月で破棄される運用となっていた。
↓
・そのため、調査を実施した令和8年1月時点で、やり直し前と後の認定調書が両方残っているのは令和7年10月以降の案件に限られるのであり、この期間だけを調査対象としたのも不自然なことではない。
・・・ということなのだと思います。
これも、この部分だけ見るとそれっぽい理由があるように思えるかもしれません。
しかし、そもそもこの問題は、令和7年4月頃に障害年金の不支給率が増加していると報道され、その審査方法に疑いの目が向けられたことが事の発端となっています。
それ以降、厚生労働省にて不正の有無の調査や点検が行われており、現在も続いています。調査結果などは厚生労働省のホームページにて公表されています。
https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/tenken.html
そんな調査点検の真っただ中の令和7年10月以降に、この期に及んで恣意的な認定結果の操作を行い続けているというのは流石に考えにくいといえます。
そのため、調査対象を令和7年10月以降のものに限ってしまえば、そりゃあ不正の疑いのある案件が検出されないのは当然というべきです。
したがって、この調査結果を根拠に、過去から現在まで何らの不正はなかったと推認することはできないと考えます(もちろん、現段階で不正があったと断言できるわけでもないのですが)。
障害年金は障害者の生活を守るための重要な制度です。私の所属する弁護士法人心でも、障害に苦しむ方が障害年金を受給できるよう申請のサポートを行っています。
今回の件は、この障害年金制度への信頼が揺らぎかねない非常に重要な問題といえます。
国および厚生労働省には、有効性のある調査点検と納得のいく説明を尽くすべきと思います。